偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
前方に設けられた壇上には、いつの間にか、社長をはじめとする「お偉方」のみなさんが並んでいる。もうすぐ、創立二十周年のセレモニーが始まるのだ。
稍は手にしていたパールホワイトのボレロを羽織った。空調が効いてきてノースリーブでは肌寒くなってきたのと、これから社長の謝辞や来賓の祝辞がある中で、肌を見せた格好はそぐわないかな、と感じたからだ。
ボレロに袖を通すときに、右手小指にある淡水パールのピンキーリングが目をかすめた。
アームはパールの白さが映えるホワイトゴールドだ。
正月に帰省した際に手に入れたのだが、三田のアウトレットに入っている真珠で名を馳せた、地元発祥の老舗のジュエリーブランドのものだ。
そのとき、隣には野田がいて『買ってやろうか?』と言ってくれたが、エンゲージリングをもらった直後だったので、稍は断っていた。
パールは、六月生まれの稍の誕生石だ。
右手に誕生石のピンキーリングをすれば「御守り」になると知って、購入以来、毎日つけているのだが。
……せやのに、婚約破棄やし。
まぁ、「魔除け」になったってことかな?
そのとき、会場を巡って招待客たちにドリンクを配るウェイターから、シャンパングラスを勧められた。「ありがとう」と受け取る。
「ややちゃん、美味しそうなお料理がいっぱいあるえ……あとで、一緒に食べまくろ?」
美咲が黒い笑みを浮かべる。
今日はこれを目当てに来たのだ。
関西人は「食」に関しては貪欲だ。
しかも、絶対に「損」したくない。
「了解です、美咲さん」
稍も同じ笑みを返す。
やっぱり来てよかった、と心底思えた。
まだ乾杯の音頭の前だが、稍と美咲はこっそりとシャンパングラスを合わせた。