BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
現実にあるわけがない……なんてことはない。

 祥真の仕事はいつでも危険と隣り合わせだ。そして、自分が聞いた行き先と違っていても、もしかするとどこかで経由や乗継があるのなら、可能性はゼロではない。

 嫌な予感だけが駆け巡る。
 そんな月穂とは反対に、乃々は祥真ではないはずだと思ってか、明るく言った。

「ていうか、もし彼氏がパイロットだったら、こういうこともありえるってことかあ。ちょっと面倒かもーなんて」

 次の瞬間。月穂は乃々の頬を叩いていた。

「痛っ! なにするっ……」
「ちょっとでもそんなことを思うのなら、あなたは彼を思う資格なんてない」

 少し手のひらが痛む。生まれて初めて人に手を上げた。
 言葉で人を助ける手伝いをする仕事をしているはずが、身体が先に動いてしまっただなんてどうかしている。

 そう、冷静なときになら感じて謝罪するだろう。
 だけど、今ばかりは申し訳ない気持ちすらない。

 ただ、彼が無事かもわらからないときに、冗談でも『面倒』だなんて暴言を吐いたことが許せない。

「あなたも命を預かる職を全うしているなら、彼の重責がわかるはずでしょう。パイロットはかっこいいだなんて軽い気持ちでしか見ていないのなら、考えを改めるべきです」

 いつもは穏やかな雰囲気の月穂が怒りを露わにする。
 乃々は驚きのあまり、なにも言い返せずに瞳を大きくさせるだけ。

 月穂は片時も乃々から目を逸らさずに言い放つ。

「もう今後、物珍しさで彼を追うのはやめてください」

 気まずそうに目を泳がせる乃々を置いて、月穂は急いでデイルームを後にした。
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