BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「以前私は、人は鳥になれないと決めつけてお話をしましたけれど、あなたはそれになれていたんですね」
「驚いた……。さすがの月穂にも笑われると思ったのに」

 きょとんとして返す祥真は、これまで見たこともないくらい目を大きくさせている。
 月穂もそんな祥真の反応にびっくりして、互いに固まった。

 先に口火を切ったのは月穂だ。

「どうしてですか? 私は納得しかしませんでしたけど。祥真はいつも高い空を飛んでいて、鳥以外になにかありますか?」

 当たり前のように聞き返す月穂に、祥真はまだなにも言えずにいた。

「素敵ですね。もしかしたら人は、なれないものなんてないのかもしれないですね」

 もう一度窓の外へ目を向ける。

 白んでいた空は、いっそう青を増している。けれど、夕方にはオレンジ色に染まり、夜は群青色に塗りつぶされる。
 同じ場所から見上げても、いろんな表情に変わる。

 なんにだってなれる。可能性はこの空と同じ。
 無限に広がっている。

「きっと鳥は綺麗な声が好きなんだろう」

 祥真が小さく笑みを零し、月穂を窓の前から部屋の隅へ引き込む。

「だから俺は、美しい音を奏でるところに惹き寄せられた」

 抱きしめる腕が優しい。

 祥真の胸の中からおもむろに顔を上げていくと愛情がじわりと込み上げ、衝動に駆られるまま、つま先立ちをした。
 そして、勢いよく彼の下頬にキスをする。

 自分の大胆な行動に、恥ずかしさでいっぱいですぐに俯いた。肝心の祥真がなにも反応を示さないので、不安と後悔が押し寄せる。
 だけど、ここで下を向いて黙っていたら、今までとなにも変わらない。

 月穂はグッと顔を上げ、瞳を赤らめながらおどおどと口を開く。

「わ、私も……」

 恐る恐る祥真の胸元から首筋を辿り、顔を見ると、片手で口元を押さえ、耳を赤くしている。
 どうやら、表情がだらしなく緩むのを堪えてるようだ。

 祥真の変化に、月穂は驚きと喜びに胸が騒ぐ。

 その綺麗な形の手で隠した顔が見たい。

 月穂は祥真の手をそっと避け、彼の表情に注目する。

「私も初めて祥真の声を聞いたときから惹かれてました。あなたが好きです」

 すると、祥真が初め、ぎこちなく顔を引き締めていたが、すぐにうれしそうに口元を綻ばせるのを見た。

「大概、俺もやばいな……ガキかよ」

 祥真はジッと見続ける月穂に降参するように、今度は片手で顔全体を覆った。
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