泡沫の夜



「はい、コーヒーどうぞ」

「サンキュ」

手渡したカップを、私の手ごと包み込んだ。

「え、ちょ、?」

「今夜、飯行こう」

「……うん?そうだね」

私の言葉に理央くんは満足気に頷いてコーヒーを受け取った。

「羽奏も飲めばいいのに」

「私はいいよ。この前から何度かいただいたから、もう十分」

ふぅん、と言いながら理央くんはコーヒーに口をつけている。

このままここで飲んでいくんだろうか?

まだ朝も早いから人もそんなに多くないけど……。

「羽奏」

不意に呼ばれて顔を向ければ、理央くんの顔が目の前にある。

え、?

あまりの近さに戸惑い距離を取ろうとした私に、更に体を寄せてきた理央くんの前髪が頬に触れて……。

「んんっ……っく、」

仰かされて、降ってきた唇が優しく触れたと思ったら、いきなり理央くんの舌が滑り込んできた。

同時に苦味を伴った液体が流れ込む。

咄嗟に飲み込んだから噎せずにはすんだけど……何するのよ。

「……っ、理央くんっ、なにする……」

抗議の言葉を口にすれば、目の前の彼は嬉しそうに笑っている。

「ここで聞く『理央くん』もなかなかいいな。もう一回不意打ちキスしてやろうか?」

「ちょっ、」

誰が聞いているかもわからないのに。

不安に辺りを見回して……背中に冷や汗が流れた。

「おはよう。お邪魔してもいいかな?」

黒縁眼鏡の下、涼やかな目元が少し歪んで見えた。

「敷島さん、おはようございます」

理央くんは焦る様子もなくコーヒーを飲んでいる。







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