泡沫の夜



「あのね、我儘言ってもいいかな?」

躊躇うように口にした言葉。

本当に我儘な言い分だと自覚している。

だからこそあえて問うのだ。

勝手だと言われるのを重々承知した上で、あえて言おうと思った。

なんとなく、なんとなくだけど理央くんは許してくれそうな気がして。

だけど私の真剣な様子に不安を感じたのか、わずかに曇った表情に申し訳なくなった。

「なに?羽奏の我儘ならなんでも聞いてやる。だけど、1つだけ聞けない我儘もあるよ」

「え。」

キュッ、手首を掴まれて引き寄せられた。

理央くんの広い胸に頬をぶつけて、すっぽりと腕の中に包まれた。

「今更、俺以外の奴と付き合いたいとか……そういう我儘は、聞けない。……聞きたくない」

頭上から降る声は震えていた。

そんな理央くんが可愛いと思ってしまう自分はひどい女だ。

だからこそ、早く伝えたかった。

理央くんを安心させたくて。

顔を上げて理央くんの不安に揺れる瞳をじっと見つめた。

言わなきゃ……。

理央くんが敷島さんにハッキリと言ってくれたように、私も同僚に話してもいいかって……。

理央くんが、私の恋人だって。

ちゃんと言いたい。

公認の仲になりたいって……。

「羽奏?」

目の前で私の名前を呟く理央くんの唇を見つめて……。

「……!」

吸い寄せられるように彼の唇に自らの唇を寄せる。

目を閉じる寸前、驚きと甘く熱のこもった理央くんの瞳を見てすごく幸せな気持ちになった。










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