【完】溺れるほどに愛してあげる


「付き合わせてごめんな」

「え、そんなことないよ!お父さんにちゃんとご挨拶できて良かった」





あたしがそう言うと千景は安心したように優しく笑った。


つられてあたしも笑ってしまう。



特にこれといった動作もなく、どちらともなくその日は別れた。





「ただいまー」

「おかえり」





キッチンではお母さんが夜ご飯の準備をしているようでいい匂いが玄関まで漂ってきた。





「今日のご飯なに?」

「ハンバーグ」

「やった!」





ドヤ顔をしながら言うお母さんに、両手を上げて喜びを表すあたし。


ハンバーグ…大好きな料理。


3日くらいは連続で夜ご飯がハンバーグでもいいってくらい。


甘い照り焼きソースがご飯を食べる手を進めるんだ。





「お腹空いた〜」

「今日お父さんの帰りが少し遅くなるからもうちょっと待ってね」

「はーい…」





って言うけれど、一度お腹が空いたと思ってしまえばその思いは募る一方。


きゅるるるる…


誰にも聞こえないようなボリュームではあるけど確実に空腹感を伝えている。


…早く帰ってこないかな。


どこ行ってるんだろう?


落ち着かない腹の虫を紛らわせるようにお父さんのことを考える。



……チョコレート1つくらいなら食べてもいいかな。


とにかく糖分がほしい。


お腹が空いて仕方ない…


お母さんには内緒でビニールに包まれたチョコレート1粒を口の中に入れる。



甘い〜美味しい。


空腹の体に染み渡る…



自然ともう1つに手が伸びていたのはあたしだけの秘密ってことで…

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