ひょっとして…から始まる恋は
純粋無垢っていう言葉が似合う時期もあったな…と秘書室の隅を見て思った。

視界に映ってるのは一組のカップルで、確か先週彼がここに来た時は、二人の仲はあそこまで親しくなかった筈だ。


(あ……触れる)


そう思った瞬間、彼の掌がぎゅっと握られる。
場所を思い出したらしく、ぐっと我慢をしたんだ。


(ふぅん…なるほど)


頭の中で納得して、自分はまた獲物を逃したのか…と残念がる。
そもそも本気で彼を狙っていた訳じゃないからいいんだけど…と少し悔し紛れに思った。


「それじゃまた伺いますので」


ドアの前で丁寧にお辞儀をする彼を先輩秘書の三波さんがニコニコ顔で見送る。
後輩秘書の保科さんは廊下まで彼を見送るつもりらしく、どうぞ…と言ってドアを開けた。

頭を上げた彼は一瞬目の合った私にも会釈をして出た。
保科さんが閉めたドアの向こうで、二人がどんな会話をしてるかなんて興味ない。



「いいわね、若いって」


アラフォーの三波さんは羨ましそうに呟く。
それを聞いて何を老けたことを…と思い、声に出したら怒られそうだから、そうね…とだけ返した。



「…ねえ、美穂」


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