ひょっとして…から始まる恋は
この桜が満開だった十六の年から藤田君のことだけを見ていた。
他の男子なんて目に入らず、ずっと彼の姿だけを追っていた。


「今思うと気持ち悪いよね」


そう思っていたからこそ誰にも何も言えなかった。
目だけで彼をストーカーしている気分で、時に自分が恥ずかしくもあった。

大学に行って別れたらきっと別に好きな人ができると思った。だから、気持ちを告げずに振り切ろうとしたのに。


結局、職場で再会して直ぐに気持ちが彼に戻っていった。大人びた彼の姿に新鮮さを感じ、きゅんと胸が鳴ってしまった。

言葉をかけられる度に好きが募り、心臓の音が大きくなった。


だけど、持ち前の消極さで何も言えなかった。
泣いて悔しがるくらいなら、松下さんみたいに、ばかやろ〜！と叫んだ方がスッキリするのに。


メソメソとしか泣けなくて、本当に自分が嫌になる。
往生際が悪くて、本当にどうしようもない。


見上げた校舎の中には非常灯の明かりが見える。
この場所で彼に恋をしたから、この場所で彼を忘れたい……。



「……無理。出来ない」


少なくとも今はとても無理。
この目で彼の彼女を見ないと納得できない。

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