初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
坂下くんは、それはもう清々しい顔で。
奥さんとの事も含めて、色々とスッキリしているのは見ての通り。だから、

「今気づくなんて、坂下くん。鈍すぎっ」

「やっぱり、そうかな」

うん、今頃気づくなんて。ほんと……遅すぎる。

「うん……そう」

そう呟いてから歩きはじめるとその背中に投げかけられたのは、

「もしも、あの頃気付いてたらなんか違ったかな」

もしもなんて、話はしないで欲しい。もしもなんてことは、ないから。
だから私は、歩みを止めたけど振り返らない。

「もしも、なんてありえないか、……ごめん。俺も酔ったかな」

私の所まで急いで歩いてくると、坂下くんは並んでそう言った。
あんなに楽しかった時間が、冬の空気のように急速に温度を失っていく。

過去は戻せない。坂下くんとの関係に“もしも”はない。あるとすれば、今をどうしたいかというだけで。先輩という彼がいる私にそれを問う権利はない。

坂下くんと帰り道は一緒。だけど今日は……

【今から行っていいですか?】

やっぱり私は、いつも

「今日は付き合ってくれてありがとう。坂下くん」

「いいえ、こちらこそ」

「私、今日はこっちだから、ここで」

戸惑い顔の坂下くんを残したまま、私はその場を去った。
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