初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
中学生の時、私は携帯電話を持っていなかった。
全員が持っているわけじゃなかったし、部活の連絡網は家の電話だった。
だから彼に直接連絡することもなかった。
あの時欲しかった繋がりが、近付いてはいけない今この手の中にある。

彼はただ懐かしくて話しかけてきただけ。頭の中でそう言い聞かせる。

"うまくいってないらしい"

ユキの言った言葉がまた頭の中に浮かんでくる。
そんなのただの噂かもしれない。それに彼、きちんと左手の薬指に指輪をしている。

ただ懐かしいだけ。
その懐かしさを少しだけ共有したいだけ。

先輩と彼の話を聞きながら、なんとなく相槌を打ち一緒に笑う。

大丈夫。懐かしい仲間として振舞えてるはず。

「大会の当日は見に行けないな」

たしか9月の日曜日だった気がするけど、今では顧問の先生も知ってる人も一人もいない。だからわざわざ見に行くのは躊躇われる。

「たぶんその辺り仕事忙しいから予定組めないしな」

どうやら二人とも忙しいらしい。

「まぁあれだ、結果出た後で飲みに行くっていうのでどう?」

「その方が都合がいいですね」

「クルミは?」

「はい、私は二人に合わせますよ」

うん、これはもう社交辞令でも何でもなく。飲みに行くの決定なんだな。
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