眠り姫は夜を彷徨う
静かな住宅街。

再び二人だけになった圭と紅葉は、あと少しで家へと辿り着くところまで歩みを進めていた。


「そっか…。紅葉に色々と僕のことで吹き込んだのも磯山さんだったんだね」

「吹き込んだっていうとアレだけど…。まあ、そう…かな…」


突然の香帆の登場に始まり、そこに現れた桐生と立花を交えて何だか思わぬ展開となったけれど、そのお陰で圭と紅葉の二人にとっては様々な誤解が解けて落ち着いた形となった。

まさか香帆が紅葉の情報を直接ヤクザに『売る』なんて行動に出るとは、圭でさえも想像もしていなかったことではあったが、そのヤクザが桐生の家だったことで結果的に良い方向で幕を閉じたのだから何とも複雑な話である。


「アンタは、何か勘違いしてるようだから言っておくが…。オレら松竹組が掃除屋を探していたのは、街の浄化・再生への協力を仰ぐ為だ。オレんちは確かにいわゆる『ヤクザ』の家系だが、人に後ろ指さされるようなことは何一つねェと断言出来る。勿論、街に溜まってるワルを殲滅して廻っていた掃除屋についても(しか)りだ。それについて脅しや揺すりなんてものは、端から成立しねぇんだよ」

桐生はハッキリと言い放った。そして、立花も横から駄目押しするように続けた。

「学校側としても、生徒間で脅しの類いが行われていたという事実が知れ渡れば、何らかの問題に発展してしまうことは避けられないのではないかな?」

そう生徒会長の顔で言われてしまい、結果香帆は「もう、いいわっ!分かったわよっ!」と、悔しげに声を上げると、その場から逃げるように走り去って行ったのだった。
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