眠り姫は夜を彷徨う
未だ謎に包まれた噂の人物。通称『掃除屋』。

初めに誰がそう呼んだのかは知らないが、今ではこの街でその名を知らぬ者はいない程にまで知名度は上がってきている。

ある目撃証言によると、実は若い女単体だとか言われているが、噂はあくまで噂に過ぎず明確な正体などはハッキリしていない。

その腕っぷしの強さに関しては、実際に多くの者を病院送りにしているのだから本物なのだとは思うが、それが『掃除屋』の名に相応しい悪を殲滅する為の正義故の行動なのか。はたまた自らの力を誇示し、悪のトップに君臨したいだけの目立ちたがりなのか。桐生の中での位置づけは未だ微妙な所だった。

(何にしても、オレにとって敵となるか味方となるか。とりあえずはそこだ。今日こそは、しっかり見極めさせて貰うぜ)

自分の『計画』の邪魔になる存在であるならば、その時は容赦なく全力で潰させて貰う。

そう。桐生には野望があった。

この街を改変させてしまう程の、大きな野望が…。



とりあえず表通りへ戻ろうと立花と二人、その場から離れかけたその時だった。

ふと視線を向けた先。先程まで潜んでいた一角の反対側から一人の少女がフラフラと現れた。その足取りはどこか重く、見るからに覚束(おぼつか)ない。

(…何だ?)

桐生は妙な違和感を覚えた。その何処か儚い姿は、この夜の街にはあまりに不釣り合いな気がしたのだ。

いや、そもそも何故その人物を少女と認識したのかさえ不思議だった。彼女の髪は長く、ふわふわと風になびいてはいるが前にも垂れ下がり、その表情を上手く隠していて顔など見えていないのだ。
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