Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 暖炉の前に置かれた椅子に座ったミュアの右うしろに、
 ヴェイニーがにんまりとした顔で立ち、トラビスを案内してきた
 クロエも静かにその左隣に立つ。

 王妃の威厳をただよわせた厳しい顔のミュアの足もとには、
 黒のオーガと銀のオーガがいて、トラビスに射るような視線をおくっている。


   
    「あー、あの、えーっと……」
    「執務補佐官トラビス=リード。私を陛下がいなくなった
     という場所へ つれていきなさい」
    「はっ、王妃さ……、あっ、いや、なぜ! それを?」



 おごそかなミュアの声に、おもわず臣下の礼をとり頭を下げかけた
 トラビスは、はっと我にかえり、すっとんきょうな声をあげたが、
 中庭での会話をミュアに聞かれていたのだとわかると、脱力したように
 肩をおとした。


   
    「王妃様、お気持ちはわかりますが……」
    「ええ、その場に行ったところで、なにができるわけでも
     ないでしょう。
     でも、何もしないでいることもできない」



 切羽詰まったミュアの言葉にトラビスはきゅっと口を引き結ぶ。
 
 真剣に考えこんだ彼は、しかし、大きなため息をつくと首を横にふった。


   
    「人手を増やして探しても見つけることができないのです。
     やはり、ここか、城でお待ち……」
    「じゃあ、オニクスをつれていけばいいんじゃないかねぇ」


 
 ヴェイニーののんびりとした声が、トラビスの言葉を止めた。


   
    「は?」
    「この子なら必ずグレイを見つけられるね。
     なんならシルヴィもつれてけばいい。
     シルヴィは、絶対ミュアを危険から守るだろうよ」
    「……」



 腰に手をあてたヴェイニーの、自信と貫禄(かんろく)に満ちた顔と
 言葉に、とうとうトラビスは


   
    「わかりました」



 と、ため息をつきながら答え、すぐに館から二台の馬車が
 ボドナ鉱山をめざし、出発した。




< 130 / 192 >

この作品をシェア

pagetop