Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

   
    「……必要ないとは?」



 ミュアがそう問い返したとき、もうグレイの身体は離れていた。

 寝台まで歩いたグレイは、二枚かかっていたシルクの上掛けを一枚、
 勢いよく引き剥がすとミュアの前を通り過ぎ、窓際におかれた広い長椅子に
 ふわり、とそれをかけた。


   
    「俺は、ここで休む。お前はそっちで休め」
    「はい?」



 言葉の意味がわからず、ぽかんと突っ立ったままのミュアにはかまわず、
 グレイはさっさと長椅子に横になると、ミュアに背中をむける。

 そのグレイの背中を見ながら、ミュアは首をかしげた。
  
  お前はそっちで休め、って、私だけベッドで眠れ、ってこと?

 グレイは ” 最後の式 ” を行うつもりはないらしい。
 それはそれでいいけれど、まさか国王を長椅子で寝させるなんて
 出来るわけがない。


 ミュアは、足音を忍ばせて長椅子に近づくと、おずおずと声をかけた。


   
    「陛下、どうぞ、ベッドをお使いください」
    「……」
    「陛下?」


 
  もう、寝ちゃったの?

 そう思いながら、肩に手を伸ばしたとき、むくりっ、とグレイが起き上がった

 慌てて手を引っ込めたミュアをグレイがじっと見つめる。


 言葉なく、ただじっと見つめられてミュアは落ち着かない気持ちになった。
 リボンひとつ解くだけで、するりと身から滑りおちそうな夜着の、
 広く開いた胸元が気になりはじめる。

 手で隠したいけど、意識していると思われたくなくて、できない。
 じんわりと熱くなる頬も、隠したいのに、やっぱりできない!
   


    「あ、あの……」



 あぶくのような小さな声でなんとかしようとしたその途端、
 急に立ち上がったグレイが、間近からミュアの顔を覗き込んだ。





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