Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
(4) unbalance

   
    「いや、はや……」


 
 言語学の教授は、額をおさえいったん言葉をきったが、大きく
 息をはくと、再び口をひらいた。


    
    「アルメリオンとターラントの言葉はたいへん似通っていますから、
     修飾文法においてはかえって間違いを犯しやすいのです。
     もっとも普段の生活では使いませんから、不自由することはない
     でしょう。
     
     ですが、公的な文書や、あらたまった礼文ではつかわれる場合が
     ございます。
     この先王妃様が、目にされる機会は多々あるはず」
    「そうですね」
    「しかし王妃様はすでに、他国の人間には難しい、修飾文法のささいな
     違いがわかり、使いこなせていらっしゃる。
    
     これは…… じつに…… 素晴らしい……」
    「ありがとうございます」


 
 ピンと跳ねあがった髭をふるわせ、興奮に言葉をつまらせる教授に、
 ミュアは、微笑み慎ましやかに礼の言葉をのべた。


 
 アルメリオンの修飾文法はたしかに難しい。
 だが、アルメリオンの王妃となるべく努力してきたミュアには、
 なんでもないこと。

 満足そうに教授が頷き、さらに口を開きかけたとき、ノックの音がして、
 侍女長のデリアがあらわれた。


   
    「お茶の時間でございます」
    「ああ、これは申し訳ない、時間をすっかり忘れていました」



 
 グスマン教授がそう答え、今日の授業はここまでにしましょう、と言ったが、
 ミュアはかすかに眉をよせた。

 たしかに時間はすぎているが、わざわざ呼びに来るほどだろうか?
 午後のお茶と違い、客を迎えるわけでもないし。
 これでは、教授に失礼だからと、


   
    「ちょうど良いですわ、よろしかったら、お茶を一緒にいかがですか」


 
 とミュアが教授を誘うと、デリアの固い声がそれを止めた。


   
    「なりません」
    「どうして?」
    「部屋におもどりください」



 デリアの有無を言わせぬ雰囲気に、気まずい空気が部屋の中に流れる。


  
    「ああ、いや、じつはこの後、知人と会う約束がありまして……」



 取りつくろうように教授がそう言い、ミュアはひそかにため息をつくと
 立ちあがった。





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