大切なものを選ぶこと



突然のことに呆気に取られていると、上座から『あちゃー』という昌さんの声が聞こえてきた。





「…弘」





「わかってる」





昌さんの言葉に短く返した弘翔は身の回りを軽く整えてからすぐに立ち上がった。




私以外の椿さん、楓さん、桜さんは、高巳は苦笑いを浮かべているし、聖弥さんは眉間に皺を寄せている。





さっきまでの盛り上がりが嘘のように静まり返った広間。





多分、何が起こったのかわかっていないのは私だけ。でも聞けるような雰囲気ではない。




蓮さんって弘翔のお兄さんだよね…?






「純、酒は?」





「飲んでやせん」





「よし、車出してくれ」





「へい」





「おい誰か、アルコール入れてない奴いないか?」






弘翔の問いかけにみんな申し訳なさそうな顔を浮かべた。




確かにこの場でお酒を飲んでない人はほとんどいないだろう。




みんな完全に出来上がってるし。





だけど、『参ったな…』と弘翔が呟くのと同時に





「じゃあ俺が美紅ちゃんを送っていくよ弘」





土方さんが苦笑いを浮かべながら入ってきた。確かに土方さんはずっと蘭ちゃんの面倒を見ていたから飲んではないんだろう。






「すまない誠さん、頼んだ」





状況を把握しているらしい土方さんは苦笑いのまま頷く。





そして…私の方に体を向けた弘翔は至極申し訳なさそうに私の頭を撫でた。





「すまん美紅、少し野暮用ができたから俺はここで抜ける。誠さんが送ってくれるから。本当ごめんな」





「野暮用?」





「あぁ、大したことじゃないよ。急ぎの仕事が入っただけだ。先に帰っていてくれ、俺もすぐに帰るから」





「…わかった」





これ以上は聞いてはいけない気がした。
引き留めてもいけない。





軽く引き寄せられてそのまま額にキスを落とされた。




こんなに人がいる前で!と抗議をする前に弘翔は純さんと広間をあとにしてしまった。






二人が去って、広間は静寂に包まれたけど…





「仕切り直しだ!!!いつものことだから気にしなくていいぞ!」





昌さんの一言でまた盛り上がり始めた。








───「帰ろうか美紅ちゃん、送っていくよ」





流石に初めてきた彼氏の家で、その彼氏がいなくなってしまえばどうしたらいいのかわからなくなってしまう。




桜さんたちは声を掛けてくれるけど、やっぱりさっきは弘翔が近くにいてくれたから安心できたんだと実感する。




そんな私に気を遣って土方さんが声を掛けてくれた。





ホッとしたのと同時に、いいのかな?と不安になる。




片付けとか手伝った方が…と思って土方さんを見ると、





「大丈夫だよ。弘に心配かけたくないからね、早く帰ろう」





穏やかに笑ってくれた。






お姉さんたちや昌さん、椿さんに挨拶をして帰る旨を伝えるとみんな、またおいでと言ってくれた。





組員さんたちにも声を掛けてもらいながら、私は秋庭家をあとにした。





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