大切なものを選ぶこと




「大丈夫だよ」




考え込んでしまった私に土方さんが優しく声を掛けてくれる。





「蓮さんは…んーそうだなぁ…。なかなかいないタイプの人だけど優しい人だよ」





少し考えるような仕草。




そして、




「分かり辛い人だから勘違いされることが多いけどね」




と苦笑いで付け加えた。






高巳に聞いても、純さんに聞いても、すごい人だって言う。だけど詳しくは教えてくれない。




土方さんも詳しくは教えてくれる気はないみたいだ






「なんで…弘翔はさっき出て行ったんですか…?」





聞いてはいけないような気がする。




だけど気になるものは気になる。





案の定、土方さんは困った顔をして言葉を探している。





「やっぱり…聞かないほうがよかったですか?」





考え込んでしまった土方さんに小さく問う。




私は立ち入ってはいけない世界の話なのだろうか。それなら、深く聞くつもりはない。





「いや、そういうわけじゃないんだ。ただね、血生臭い話だからね」





「それって…」





「弘は君のことをとても大事にしているからね。俺から余計なことを聞くよりも、弘に直接聞いた方がいい。今、俺がここで蓮さんの事や今日の事を話しても、美紅ちゃんの心の部分はフォローしてあげられないからね」






ゆっくり、穏やかに、言い聞かせるように言う土方さん。




棘のある言い方でも、私の質問を面倒だと思って流したわけでもなく、本心からの言葉。





ただ…裏を返せば、蓮さんと弘翔の関係、今日なんで弘翔が血相変えて出て行ったのかを知れば、私は傷つくということだろうか。






「大丈夫だよ」




再び考え込んで俯いてしまった私に、もう一度土方さんが言う。






「君には弘がついてるから」





「……はい」





「俺からのアドバイスは一つだけ」






いつの間にかマンションに着いてしまっていた。





路上に車を停めた土方さんが後ろを振り返って優しく笑う。




笑った顔もやっぱり男前で、笑うと目尻に皺ができて、より優しくて柔らかい雰囲気になる




『イケオジって素晴らしい!』と加奈が騒いでいたことがあったけど、確かにイケオジって凄い。




それくらい、土方さんの柔らかい笑顔は破壊力が抜群だった。






「蓮さん相手に嫉妬はしないほうがいい」





「えっ…?」





「あの二人はブラコンの域を超えているようにも見えちゃうからね」





弘が心の底から愛しているのは美紅ちゃんだけだよ。






そう言ってくれた土方さんのおかげで、心のモヤモヤが少し晴れた。




そうだ知りたいことは、弘翔に直接聞けばいいんだ。







──土方さんの言葉に頷き、送ってくれたお礼を言ってそこで別れた。





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