大切なものを選ぶこと
──「てか弘、なんかあったん?」
「ん?」
本家までの道中、助手席に乗り込んだ高巳がなぜかニヤニヤと聞いてくる。
こいつは…なんで仕事だけでなく人の一挙一動に、こうも機敏なのか…
隠し事はさせてもらえないらしいな…。
「なんかいつもより機嫌がいいかなって」
「あーそうか?」
「うん。なんか、恋しました…みたいな顔してるぜ」
「なっ………な、に言ってる…」
「慌てすぎだろ!カマかけただけなのに!
何?マジで好きな子でもできちゃったの??」
好きな子…?
恋…?
あぁ…美紅に対するこのもやもやする感情は恋なのか。
一目惚れなんて言葉を信じているわけでも、そんなもんがあるとも思っていなかったが…
人を好きになることにかかる時間なんて一瞬な時もあれば、何十年もかかることもあるとは思っている。
どうやら俺は一瞬で好きになってしまう派の人間だったようだ。
「好きな人か……ま、どうやら好きになっちまったみたいだな」
「……………」
俺の言葉に高巳は何も言わずに神妙な顔をした。
おいおい、そんな顔をしてくれるなよ。
お前の言いたいことはわかってるさ。
純もバックミラー越しに俺の顔を伺っている。
「やめとけよ弘。
お前が辛い思いをするだけだ。それに、巻き込まれるその子にも良い事なんかねえよ」
「恐縮ですが弘さん。俺も高巳と同じ意見です。あなたは秋庭組を継がれる身、弘さんのためにもその方のためにもならないと思いやす」
先程までとは違って真面目なトーンの二人に思わず笑いがこみ上げる、さすがは俺の右腕。
わかってる。美紅とは住む世界が違うことなんか。
だから美紅とどうにかなりたいなんか少しも思っていない。
俺にはガキの頃から大切にしてきたものがある。
そしてそれは…普通の世界ではない。
「ま、無理だな。一般人はないな。
この世界を見せるつもりなんか毛頭ねえよ」