王太子の揺るぎなき独占愛
「疲れただろ? そろそろ日も暮れるから戻ろう。湯あみの準備もできているはずだ。それに、ジークがなにか食べるものを用意しているだろう」
サヤしか目に入らないとでもいうような甘い視線と艶のある声を間近に感じ、ファロンは呆然とする。
今目の前にいるのは本当にレオン王太子殿下だろうか、と。
国の平和と国民の幸せを第一に考え、自分の感情をさらけ出すことのない優れた王太子。
それがレオン殿下だというのに、このとろけそうな笑みと緩んだ口元を隠さないオトコはまるで別人だ。
「レオン殿下……?」
ファロンの口から無意識に出た微かなつぶやきは、サヤしか見えていないレオンには届かなかった。
そして、男性と接することに慣れていないせいで、この場でどうするのが正解なのかわからないサヤも、ファロンの言葉は聞こえなかった。
それどころか、レオンとサヤは互いを見つめ合うばかりで、ファロンの存在をすっかり忘れていた。