【完】そして、それが恋だと知った日。

いつもふたつで結った髪の毛は。
後ろで一つでまとめて。
緊張しても、掴む所はないから。
代わりに巾着のひもをきゅっと握る。


カランカラン、下駄の鳴る音が辺りに響く。
みんな駅から離れていく。
駅から離れた所の神社でお祭りあるんだもんね。


隣町の花火大会にわざわざ足を運ぶ人はいないから。
駅付近はかなり空いていた。
人の流れに逆らいながら駅へと足を進めると。
いつもの待ち合わせ場所の壁の近くで立っている伊澄くんを見つけた。


「伊澄くん!」


今日は伊澄くんの方が早い。
今まで私の方が早かった。
映画の時と、塾の見学の時。


3回目は。
初デートは、伊澄くんのほうが先。


初デート。
その響きだけで顔が赤くなる。
デート、するんだ私達。
緩んだ口元をそっと片手で覆った。


「お、がさわらさんっ。」


私に気付いて手を振ろうとした伊澄くんは。
私の姿を見た途端。
顔を赤くして反対側に顔を背けた。


浴衣……似合ってるかな。


ドキドキしながら伊澄くんの隣へ立つ。
今日の伊澄くんは私服だ。


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