君のことは一ミリたりとも【完】




「ごめんください、このあいだの旅行のお土産を持ってきたのだけど」

「千里さん!」


にこやかに微笑んだ彼女の周りにあっという間に人が集まった。それくらい人を惹きつける力を持っている人だと思う。

旦那さんと一緒で。


「うわ、奥さん来るとか社長言ってなかったから何も準備してねぇじゃん」

「……」

「……亜紀?」


歯をガタガタを震わせていると菅沼が「亜紀!」と激しく私の肩を揺すった。


「大丈夫か、さっきよりも顔が真っ青だぞ」

「っ……あ、大丈夫」


と言ってみるけれど本当のところはこのまま逃げ出したいくらいだ。
何故なら彼女は私と関係を持っていた生瀬社長の奥さんである。

つまり、社長夫人。


「ハワイに行ったお土産ね、私から渡そうと思って」

「ありがとうございます!」

「あとケーキも焼いてきたから良かったら」


私と菅沼以外の社員が彼女に集まってお土産などに心を躍らせている。
その様子を眺めながら菅沼が「あらまー」と感嘆の声を漏らす。





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