君のことは一ミリたりとも【完】




心配そうに言葉を呟く彼に自分がかけさせてしまった心配は思ったよりも大きかったのだと悟る。
そうだ、一昨日みたいなことはもうないようにしないと。あんな危機じゃなければ唐沢に頼らなかった。

これ以上、唐沢に弱みを握られないように。


「うん、ありがとう菅沼。こういうこと言えるの菅沼だけだから」

「っ……あ、当たり前だろ! 何でも言ってくれよ」

「取り敢えず今日も仕事頑張ろう」


仕事の部分はもう少し周りを頼ってもいいかもしれない。この間の田島さんみたいなミスもあるかもしれないけれど、失敗を得て成長することもある。
菅沼なら気軽に頼めることも多いし、今まで全部を背負いこんでいた分視界を広くすることを意識しよう。

それもこれも、一度抱え込みすぎて爆発してしまったからなのだけど。

仕事につこうとするとデスクの上に置いてあったスマホが白く点灯する。
すると何故かそこに映し出された「唐沢爽太」という名前にドキリと胸が締め付けられた。


「(なんで、私アイツにLINE教えたっけ? あぁ、電話掛けちゃったから番号で特定されたのか)」


トーク画面には【体調大丈夫? ご飯とかどう?】という文面が投稿されていた。
体調を聞いておいてご飯に誘うとか、変に矛盾してない? この男。

昨日の朝にタクシーで飲みに誘われた時は勢いで断ってしまったけれど、一日だって冷静になったら一応助けてもらったんだしお礼ぐらいした方がいいのではないだろうかと私の中の良心が訴えてくる。
だけと相手はあの唐沢だし、また変なことをきっと言われるだろう。そもそも私はアイツが嫌いなわけだし、お礼なんて言わなくたっていいんじゃないだろうか。

まぁ、ご飯ぐらいなら別に……

それでも人として、お礼を言った方がいいかもしれない。貸しになんかしたくもないし。
それでキッパリと断ってしまえば向こうも諦めるだろう。



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