初恋のうたを、キミにあげる。
番外編

名前呼び

以前プライベッターであげたものになります。
本編終了後の話です。
***


「ふたりって下の名前で呼び合わないの?」

大城くんからの一言は私にとって衝撃的だった。
そのことに関してまったく考えもしていなかった。付き合っているのなら、苗字ではなくて下の名前で呼ぶ方が自然なのだろうか。


「まあ、そのうちでいいんじゃない」

森井くんは特に気にしていない様子で机の上に広げた雑誌のページを捲っていく。そのうちということは、いずれは呼び合うようになるということだ。いったいその日はいつごろやってくるのだろう。

「呼び方が変わるとちょっと違和感はあるよねー。でもあだ名とか、下の名前で呼び合った方が距離が近づく気はするけど。ね、星夏ちゃん」

きぃちゃんに〝星夏ちゃん〟と呼ばれて頬が緩む。私たちは木崎さんと小宮ちゃんと呼び合っていたけれど、最近お互いの呼び方を変えたばかりだった。

木崎さんのことを〝きぃちゃん〟私のことを〝星夏ちゃん〟と呼ぶようになり、最初は緊張したけれど、今では以前よりも親しくなれたような気がする。

けれど、森井くんのことを下の名前で呼ぶのはそれ以上に緊張する。


それに自分が呼んでいる想像がつかない。きぃちゃんみたいに気さくに〝慎ちゃん〟なんて呼べる気もしないし、大城くんみたいに呼び捨てもできる気がしない。


「無理しないでいいから、別に焦ることじゃないし」

私の考えていることは森井くんには伝わってしまっているようで、優しくフォローしてくれた。


「つまり先は長いからって言いたいんだね」
「毎度毎度ごちそうさま」
「うるさい」

きぃちゃんと大城くんのからかいに森井くんはなれた様子であしらう。

あまり下の名前呼びに関しては興味がないのか、それ以上は森井くんが話題に触れることはなかった。

私は呼びたい気持ちもあるけれど、照れくさくて一歩踏み出すにはまだ時間がかかりそうだった。





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