星夜光、きみのメランコリー


緑の草の上、青空の下。

色が溢れかえるこの世界で、千歳くんの熱があたしを支配した。

色のことを考えられなくなる瞬間は、初めてに等しかった。



「…千歳く…」

「何その顔? 真っ赤なんだけど」

「…っ」


薄いくちびるから発せられた声が、肌を伝った。その合間にも、犬歯で痕をつけられては、痛みを与えられる。

…千歳くんは、何を考えているのか、たまに分からなくなるよ。



「…もう、やめて…」

「やめない。いらないんでしょ、この腕」

「…っ、やめて…」



恥ずかしいのと、こわいのと、千歳くんから感じてくる少しの怒りが、涙を誘った。

じんわりと滲んで行く視界。それに気づいてやっと、色に意識を戻すことができた。



——— “ 自由自在に色を生み出せるお前とは違うの ”



…千歳くんは、怒っているんだ。あたしが、彼にないものを持っているのに、いらないなんて言ったから。

色を生み出すために必要だった、大切にしていたものを、切り捨てようとしたから。


「…っ、う…」


でも、だって、つらかった。

自分にとっては素敵な能力でも、周りの人に後ろ指をさされるのがこわかった。

家族にでさえ白い目を向けられるのがこわかった。

でも、生まれながらに持っていた才能のせいで、周りに期待されるのがうれしかった。


…色々な感情が絡まって、未だに整理しきれていない自分が、きらいだった。



でも、きっと千歳くんだけなんだ。

あたしの世界を理解したうえで、同じ絵を好きな気持ちで、向き合ってくれたのは。



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