星夜光、きみのメランコリー
「千歳くん…」
「ん?」
ざわざわとしていた廊下が、いつの間にか、しんと静まっていた。気づくと、そこには取り残されたあたしたちだけ。
もう、休み時間だ。さっきまで美術室にいたクラスメートが戻ってきてしまう。あたしも、片付けに行かないと。
…でも、でも、その前に。
「…あのね、よかったら、千歳くんの連絡先教えて…」
また、千歳くんに会える理由が欲しいよ。
千歳くんに気持ちを伝えられる術が欲しい。
いつでも話せる手段が欲しい。
“ 会いたかった ” とは、まだ言えないけど、そのくらいなら、いいかなあ。
笑わないで、聞いてくれるかなあ。
「…俺の?」
「うん」
「どーしよっかなあ」
「えっ」
恥ずかしくて下を向いていたけど、千歳くんの意地悪な声に導かれて、思わず上を向いた。
その時にばっちり合ってしまった目。また恥ずかしくなって下を向いた。
「…む、無理はしなくていいよ…」
恥ずかしい。そういえば、図書室の時も千歳くんはこんなことを言っていたな。教えるの、嫌だったのかなあ。
「やっぱりなんでもない」そんな情けないひと言が、もう口の中まで出てきそうだった時、短い前髪のせいで露わになったおでこで、コツンと音が鳴った。
「今、スマホ手元にないから。あとで教える」
「…!」
そういえば、体育服のままの千歳くん。足止めをしていたのは、あたしだ。早く着替えないと、次の授業だってあるのに。
「あ、ご、ごめん!」
「は?なにが? とりあえず、あとでな」
「うん!」
あとで。
それがいつなのかは分からないけど、また千歳くんに会えるきっかけができた。それがすごく、嬉しかった。
あたしを覗き込む千歳くんの顔が、やさしくほころんだ。