シェアハウス



 ———ピンポーン


『——はい』

「あっ、あの……樋口真紀です」

『……あ。ちょっと待ってね』


 インターホン越しから聞こえてくるその声は、先日電話口で聞いたのと同じ穏やかな声で……。緊張で固まっていた私は、ホッと息を吐くと肩から力を抜いた。


「——いらっしゃい、真紀ちゃん」


 程なくして目の前の玄関扉から現れたのは、優しい笑顔を浮かべるとても綺麗な女性だった。
 その想像以上に美しい姿に、私は再び緊張で固まると思わず見惚れてしまった。

 スラリと伸びたモデルのような手足に、ニキビ一つない整った小さな顔。サラサラの綺麗な長い黒髪を耳に掛ける仕草は、なんだかとても色っぽくて……思わず、ドキリとする。


「迷わなかった?」

「……っあ。はい! 大丈夫でした!」

 
 ペコリと小さくお辞儀をすると、クスリと笑った静香さんは、「どうぞ中に入って」と言って優しく私を迎え入れてくれた。


「真紀ちゃんの部屋は、ここ。自由に使ってね」


 そう案内された部屋には、ベッドと大きめな棚が用意され、その横にはクローゼットまで付いている。壁にはベッドと同系色の可愛らしいピンクのカーテンが掛かり、全体的にとても女の子らしい部屋だった。


「あの……。本当に、3万でいいんでしょうか?」


(こんなにいい部屋を、本当に3万で貸してもらえるの……? もしかして、私の聞き間違えかも……)


 この部屋を見ると、何だかそんな気がしてくる。


「安心して。光熱費込み、3万で大丈夫よ」


 私の不安な気持ちを察したのか、静香さんはフフッと柔らかく笑うとそう答えた。


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