泣けない少女
「今日ね、リサちゃんとリカちゃんがね!」

「へえ、そうなんだ」

友達との話を嬉嬉として語る優愛は密かに安堵していた。良かった、いつもの優しい母親だ、と。

「そうだ。今日の夜パパの車に乗せてもらって蔦屋に買い物に行くから着いてきて?」

「はーい!」

沢山の本や文房具を取り扱っているその店が優愛は好きだった。女の子なら誰でも可愛い小物に目が行くものだ。

しかし、その日は優愛にとって生涯忘れられないものとなる。

ーーーーーーーーーー

「じゃあ俺ここで待ってるから」

そう言う父親を見て元気に行ってきますと言った優愛はルンルン気分で母親の後ろをついていく。そして自動ドアから中に入り、すぐそこにあるレジの隣にあったストラップに目を奪われた。青色のクローバーの中にキラキラしたものが入っていて光を纏っていた。

「可愛い〜」

近づいて暫く眺めていたがふと気づく。母親がどこにもいないのだ。ストラップに目がいってる間にはぐれてしまったようだ。闇雲に店内を走って母親の姿を探す。そうしていると10分程して優里の後ろ姿を見つけた。走って近づいていくと、優里がこちらを振り返った。

やっと見つけられた事に安堵したのも束の間、優愛の顔を見た優里は激怒した。はぐれた事を謝ろうとした直前だったので出鼻を折られた優愛は何も言えなくなった。しかし優里が怒っていたのははぐれて心配したからではなかったのだ。

「あんたママが必死になって探してる姿後ろから笑って見てたんでしょう!?」

その言葉の意味を瞬時に理解出来なかった優愛は首を傾げる。

「この悪魔!もうあんたなんか要らない!ずっとそこにいなさい!」

そのままカゴを置いて優里は外へと向かう。泣きながら慌てて追いかけるが、優里は歩くスピードを速めた。そして父親のいる車まで戻り自分だけ車に乗り込んだ。

「この子乗せなくていいよ。早く発進して」

「え…。何かあったの?」

「いいから!もうこんな子要らないの!」

「うぇーん!ごめんなさいぃ!」

泣きじゃくる優愛を外に出したまま車を走らせろと言う優里。流石にこのままではいけないと思ったのか、父が母を説得し、何とか優愛を車に乗せることに成功した。
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