泣けない少女
「…り…優里!」

祖母の呼ぶ声で目が覚めた。辺りは薄暗くなっている。どうやらかなりの時間寝ていたらしい。

「夜ご飯用意するよ!」

「は〜い…」

ご飯一つ作るだけで一苦労なのだが、そんな事言えはしない。言っても理解されず、怠け者だと怒鳴られるだけだ。重い体を気力を振り絞って起き上がらせ、階段を下りて台所に向かった。

「優愛〜、手伝って」

居間で遊んでいた優愛に声をかけ、台所の扉を開ける。どうやらお米は祖母が炊いてくれた様だ。今祖母はまな板の上に茹でたほうれん草を乗せて包丁で等間隔に切っている。

「優愛、冷蔵庫から卵取って〜」

優里はフライパンを取り出し、油を敷いて火をつけた。その直後、優里の近くまで来た優愛が台に卵を置こうとしたが、パックから一個零れ出てそのまま床に落下してしまった。勿論殻は割れもう使えない状態である。それを理解した途端治まっていた怒りが再度ぶり返した。

「優愛!何で手伝いの一つもろくにできないの!?この木偶の坊!」

「……」

優里の剣幕に驚いたのか、優愛は下を向いて割れた卵を呆然と眺めるだけで口を開かない。その様子に更に火がついた。

「謝る事も出来ないの!?さっき怒られたばっかりなのにまた怒らせて!何で!そんなに!役立たずなの!?」

自分でも止められず、次から次へと暴言が口から零れる。気が付けば手を振りあげて優愛の頬を思いっきり叩いていた。

「こら優里!止めなさい!」

「うるさい!悪いのは優愛でしょ!?」

どんなに優愛が悪い事をしたって何時も祖母は優愛を庇う。それが許せなかった。こんなに辛いのも、味方がいないのも、責められるのも自分だけだ。

「ご…めんなさい…」

優愛がか細い声で謝るのが聞こえたが、怒りは鎮まる所か大きくなる一方だ。

「今更謝っても遅い!何ですぐに謝れないの?自分が悪いって思ってないからでしょ!?」

「ごめんなさ…」

「うるさい!あんたの口だけの謝罪なんて聞きたくない!黙れ!もう喋るな!」

怒涛の勢いで怒鳴る優里は優愛を突き飛ばし、台所から追い出そうとした。

「優里!…もうここは良いから居間に行ってな!」

そう言われ背中を押され台所から出された。怒りが鎮まらないまま居間に入り、テーブルの傍に座る。後をついてきた優愛が自分の隣に座ろうとする。

「ちょっと、近くに座んないで?」

そう言って軽く体を押して拒絶した。少しでも心を落ち着けるためにタバコに火をつけ煙を吸う。
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