泣けない少女
それからはただただ我慢する日々が続いた。あの大量の薬を飲んだ数分後に気絶する様に眠りにつき、家事も殆ど出来ず、夫や優愛にはお弁当を食べさせていた。その中でも優愛にはお菓子などを主食に食べさせる事も多く、申し訳ないと思いつつもどうする事も出来なかった。

「お前最近太ったんじゃない?」

夫のその一言で自覚した異常。鏡に映った自分の顔や腕はパンパンにむくんでいた。

そしてそれだけではない。昔は1人前の弁当すら残してしまう程の少食だったにも関わらず、無性に食べたい衝動に駆られる時があるのだ。このイラついた気持ちを抑えたくていつの間にか食べ物に手が伸びてしまう。

結婚指輪も薬指に食い込むほどサイズが合わなくなっていた。それを見た夫は蔑むような視線を送ってくる。もう耐えられなかった。そんなある日…。

「うわあん!マーマー!」

そんな子供の泣き声が聞こえて振り向くと、優愛が泣いていた。理由はなんてことない、ただ遊んで欲しいだけだ。そんな何時もの事なのに、今日は何故だかそれがいやに耳障りだった。

「ママ今具合悪いから後でね」

「いやぁだ!」

そう言っても3歳の子供が理解してくれる筈もなく尚も泣きじゃくる優愛。それが無性に腹立たしく感じた私は遂にやってしまった。

パンッ

「うるさい!少しは静かに出来ないの!?」

優愛の右頬を叩いて思い切り怒鳴ってしまったのだ。ふと我に返り、慌てて我が子を抱きしめる。怒鳴られた恐怖と痛みに泣き叫ぶ優愛の背中を摩りながら。

「ごめん、ごめんね…っ」

激しい後悔が襲うがやってしまった事は変えられない。次からは絶対怒鳴らない様にしなければ。

しかしそう誓った優里を嘲笑うかの様に病気の魔の手は着々と彼女の首を締めていった。
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