【短編】手のひらを、太陽に…
 そう言うと、桜井は普段見せないような真剣な眼差しで志音を見た。


「でもね、最初から信じてた。ううん、信じたかった。親が子供を刺すことはしないって。こういう事件、本当に親が子供にナイフを向けることも稀じゃないけど、でもいつも、思っていたいのよ。子供を愛していない親はいない、ってね。」

 桜井はそこで微笑んだが、そこに少し淋しさも含んでいた。そこには桜井が今まで見てきた過酷な現実が見え隠れしているようであった。

「虐待をする親は、子供にどう愛情表現をしたらいいか分からないことが多いの。子供を虐待から守ることももちろん大切だけど、それだけでなく虐待してしまう親の裏にある心のケアも大事にしていきたい。子供にとって親は失えない絶対的な存在だから。」

 志音は桜井の話を聞いて、自分がいままで桜井をお役所の人というだけで心ない堅苦しい人間だと偏見していたことを反省した。本当は、桜井は志音や志音の父親のことをちゃんと考えていた。
 そして志音が複雑な心境ながらも父親を想っていることを桜井は察して、父親と面会することを勧めたのである。

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