恋し、挑みし、闘へ乙女
ん……誰それ? 乙女が不思議そうな顔をするので龍弥は「仕方がないな」と言いながら説明を追加する。

「丸永はマフィアのグループ名。御大はドンのこと。御大の名は永瀬蘭丸だ。分かったか?」

そこで言葉を切り、龍弥は鼻息荒く怒ったように言う。

「お前を迎えに来た男、ちょっといい男だからって気を許すからこんなことになるんだ」
「――いい男って誰が?」

キョトンとする乙女に、「お前、蘭丸の色香に惑わされたんじゃないのか?」と信じられないという面持ちで訊く。

「色香って……そんなの振り撒いていた?」

龍弥が笑い出す。

「超ナルシストのあいつが今の聞いたら怒り出すぞ。うわっ、ヤベェ、乙女嬢、俺、お前に本気で惚れそうだ」
「ご遠慮申し上げます」

速攻で乙女は突っぱねる。

「それよりあの男が私に睡眠薬? でも糸子さんのお迎えって言っていたのに……どういうこと?」

回らない頭が自問するが、答えなど出ない。
だから、乙女はまず目の前の疑問を先に片付けることにした。

「ところで、どうして貴方がここにいるの?」
「俺かぁ? 俺は蘭丸に金で頼まれただけ。お前を見張っていろと」
「はぁ? 金で頼まれたって探偵の仕事で? それ探偵の仕事? 何でも屋じゃない」

乙女の罵りに龍弥がフンと鼻を鳴らす。

「うちはオールマイティーなんだ」

そう言いながら、どこから取り出したのか「ほら」と水の入った容器を乙女にを差し出す。
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