恋し、挑みし、闘へ乙女
彼に惹かれ始めている? 定かではないが乙女はボンヤリとそう思いながら、まるで他人事だ、と自嘲する。

想像や妄想では幾度も恋をした。しかし、リアルな恋は未経験だ。何をもって恋というのかが乙女にはサッパリ分からなかったのだ。

車は深い林の一本道を走り抜けて行く。登り坂のようだ。鏡邸は丘の上にある。そろそろ到着するのだろう。

取り敢えず、今は拐かしの件だけを考えようと乙女は前方を見る。
木々の間に見え隠れする建物。それがだんだん近付いてくる。

「おどろおどろしいですね」
「昼間見るのは初めてかい?」

そう、前回は夜だった。現場検証のために煌々とライトが灯され、ライトアップされた屋敷は意外にもロマンチックに見えた。

しかし、日の光で見る鏡邸は年月が経って老朽しているだけではなく、家人を失った侘しさが漂っていた。それ故、何かおどろおどろしいものが住み着いているように思えた。

「中に入るのが怖いかい?」

綾鷹が訊ねる。

「それはありません」

それ以上にワクワクすると乙女は瞳を輝かせる。
車を屋敷の玄関先に置き、綾鷹が乙女の手を繋ぐ。

「決して私から離れないこと。約束だよ」

綾鷹が言い聞かせるように乙女に言う。
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