恋し、挑みし、闘へ乙女
「平和主義がモットーだ」と乙女が胸を張ると、「つべこべ言わず、さっさと入って下さい!」と、とうとうミミが怒り出す。

「全く! お嬢様は結婚を何だと思っているのですか!」

説教を始めるとミミは長い。こういうところが、シェフ兼女中頭の駒江駒子と息が合うところなのだな、と御年六十八歳ながらミミよりもテキパキと働く駒子の姿を思い浮かべ説教をやり過ごす。

「――とにかくです。早くお風呂に入って下さい、お湯が冷めます」

冷めるのは長い説教のせいではないだろうかと、そのことで叱られるのは理不尽だと思いながらも、これ以上、話を聞くのも疲れると白旗を揚げ、「行ってきます」と乙女は浴室に退散する。

「うわっ、何!」

バスルームはミルクと薔薇の香りにむせかえるようだった。
甘ったるい香りに乙女はウッと息を詰まらせる。

「ミルクは飲むもの薔薇は愛でるもの。本来の目的を達成できなかった可哀想なものたちに哀悼の意を表します」

顔を歪めながら黙祷を捧げ、掛け湯をする頃にはようやく鼻が匂いに慣れ、乙女は浴槽に身を沈めた。

「やっぱり、私は爽やかなシトラス系の香りか鎮静効果のある森林の香りの方が好きだわ」

プカプカと浮く薔薇の花をひとつ摘まみ上げ、「私には似合わなさすぎる」と苦笑を浮かべながら独り言ちる。
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