恋し、挑みし、闘へ乙女
「では! 梅大路綾鷹様は陛下のことばかりですね! 裏がかければ見合いの相手は私でなくてもいいのでは? なら、お芝居には協力させて頂きますが……結婚はありません!」

「まぁ、乙女さん、貴女、何を言うの! お見合いをして結婚しなかったら……嫌よ! また、世間に後ろ指さされるのは!」

一葉がシクシク泣き出す。

「お母様……離縁するよりいいでしょう?」
「離縁の方がマシよ!」

ハンカチで顔を埋め、一葉が怒鳴る。
壊れた? もうメチャクチャだ、と乙女は溜息を吐きながらも一葉の背を撫で宥める。

「母上殿、ご安心召され。破談などありませんゆえ」

綾鷹がニッコリ微笑む。スンスン鼻を啜りながら一葉がハンカチから顔を上げる。そして、疑わしそうに、「まことですか?」と問う。

「ええ。その証拠に花嫁修業として、乙女さんには我が家に来て頂きます。今日から!」

はい? 乙女の目が飛び出しそうなぐらい見開かれる。
「まぁ!」と一葉の涙がピタリと止まり、満面の笑みが浮かぶ。

その変わり身の早さに乙女が呆気にとられていると、「大変だわ!」と一葉がパチンと両手を合わせ「どうしましょう!」と困った顔をする。

「だったら、早急にお泊まりの準備をしなくちゃ!」

今にも帰りそうな一葉に綾鷹が言う。

「いえ、お気遣いなく。必要な物はすでにこちらで全て整えております。身ひとつで結構です」

しばし乙女が意識を飛ばしている間に、話がどんどん進んでいく。

「ちょっと待ったぁ!」と乙女が叫んだのは、「では、よろしくお願いします」と一葉が頭を下げたときだった。
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