恋し、挑みし、闘へ乙女
「紅子さんにはかなわないなぁ」

綾鷹が頭を掻く。

「そうか、まだまだ未発達かぁ。それはいろいろ……楽しみだ」
「綾鷹様!」

紅子が諫めるように綾鷹を睨む。

「で、何をおっしゃったのですか、綾鷹様!」
「紅子さん、その顔、怖すぎ。ただ私は乙女に好きだと告白しただけです……」

「まぁ!」とミミが頬を真っ赤にさせ言う。

「それは刺激が強すぎましたね。私でも照れます。まして、お嬢様はお伽の国の住人とでも申しましょうか……」

「もしかしたら、初恋もまだですか?」と紅子が嬉々とする。

「さようです」
「今どき天然記念物並の純情乙女! 綾鷹様にピッタリの花嫁です」

梅大路家最大のネックは紅子だ。紅子に気に入られなければこの家でやっていくのは辛い。その紅子を味方に付けたのだ、もう誰も乙女を邪険にできない。

怪我の功名だな、と綾鷹はホッとするものの、口づけたことは黙っていた方がよさそうだな、とひとりほくそ笑み、完全に意識を手放した乙女を綾鷹は愛おしそうに抱き締める。

そんな二人を愛おしそうに見つめながら、「綾鷹様、ご安心召され!」と紅子が力強く言う。

「梅大路の嫁として行儀作法全般、この紅子が責任を持ってビシバシ教育させて頂きます!」

ドンと胸を叩く紅子の迫力に、ミミはヒッと息を飲み、「お嬢様、ご愁傷様です」と呟いた。
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