恋し、挑みし、闘へ乙女
その背にミミが、「午前中は海老茶の袴をお召し下さい!」と指示を出す。

数分後、赤い矢絣の着物に海老茶袴姿の乙女が、庇髮という束髪を半分垂らした今風の姿で現れる。

プンプン怒っていたミミも熱が冷めたようにその姿に見入る。

「――本当、お嬢様はスレンダーなので、何を着てもお似合いですねぇ」

ミミは、自分の背より十センチほど高い乙女を頭の先からつま先まで眺め、惚れ惚れと言う。

「でも、私はこんなガリガリのヒョロヒョロより、守ってあげたくなるような小柄なミミが羨ましいわ」

「隣の芝生は青い……かぁ」と突然の声に乙女とミミは驚きドアの方を見る。

「綾鷹様!」

ミミが諫めるように言う。

「ノックもなさらずにレディーの部屋にお入りになるとは!」
「ああ、すまない。楽しそうな声が聞こえたから、つい誘われてね」
「まぁ! 甘い蜜に導かれた蝶ようですね」

コロコロ笑うミミに乙女は反発するように、チクリと毒を吐く姿は蝶というより蜂だわ、と綾鷹から視線を外すと鏡の中の自分に同意を求めるように頷く。

「乙女……」

綾鷹がコツコツと靴音を立て乙女に近付く。

「今日も素敵だね。私はガリガリでもヒョロヒョロでも、君がいい」

鏡越しに乙女を熱く見つめ耳元で甘く囁く。
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