恋し、挑みし、闘へ乙女
「西之国にも行かれるのですか?」
「嗚呼、西と南之国へな」
「では、以前頂いた西之国で評判の“ツキミ”もお願いします」
「見合いの会場で出たあの菓子か?」

乙女がコクリと頷く。

「あの時、月華の君が仰せの通り、本当に美味しゅうございました」
「了解した」

フッと笑みを浮かべ綾鷹が軽く頷く。

「そう言えば陛下が『南之国の“三日月”という菓子も旨い』と仰せだった」

綾鷹曰く、“三日月”という菓子は南之国で取れるバナナという果物を生地に練り込んだ菓子だそうだ。

「バナナって、ここら辺りでは滅多にお目にかかれない高価な果物ですよね」
「嗚呼、足がはやいからな。それを生地に練り込んで三日月の形にした半生の菓子だそうだ」
「もしかしたらですが……月華の君って、お菓子大好き人間なのですか?」

綾鷹は苦笑しながら「ああ、内緒だぞ」と言う。

「お茶目な方ですね」
「ある意味な……」
「他にも何か?」

乙女の質問に綾鷹がニヤリと笑い、「その内に分かる」と言う。
何だろう、と乙女が考えていると綾鷹が拗ねたように言う。

「他の男を思うより、私の見送りをして欲しいのだが」
「あっ、行ってらっしゃいませ」

乙女がペコリと頭を下げ、上げると綾鷹の顔がすぐ側にあった。
< 84 / 215 >

この作品をシェア

pagetop