つちかぶりひめ

「さく姫はいるか?」


「お父様!!!おかえりなさい〜〜!!」



奥から聞こえた父の声に反応し、さくは子供らしくドタバタと襖を開けて父の元へと駆け寄る。

「さく姫も大分大きくなったなぁ」

「だって私ももう7つですよ!立派な女性です!」


立派な女性はもっと静かに出迎えてくれるだろうに…と思いながらも、誇らしげに胸を張る娘を腕に抱え、父、若葉はたまらなく可愛い愛娘の黒く艶のある髪を撫でた。

「そうか、もうそんな歳になるのか…」


齢10を越えた頃から、婚姻の契りを結ぶことが出来るようになる。しかしながら、高位貴族に生まれた姫は、帝の妃を目標とすることが多いため、仮に婚約の話が浮上してもすぐにはうなずかない。姫が他家に嫁げる年齢ギリギリまで、帝の妃の地位を狙うのだ。しかし、下位貴族については、自身より高位の殿方に見初められてしまったら最後、断ることは出来ず、契りを結ばなければならない。断った場合には、高位貴族からの政治的圧力…すなわち社会的死が待ち構えているからだ。
たとえその殿方が、親である自分よりも年配であっても、評判の良くない遊び人であっても、やはり断ることは出来ない。


「お父様?」

自分を見つめたまま考え事をする父を不思議に思い、さく姫は首を傾げる。そのつぶらな瞳と視線を合わせた若葉は、自身の娘への憂いを抱えながら、目を細めた。

「なんでもないよ。さぁさく姫、今日は私と一緒に外へ行って村の様子を見に行こうか」


「はい!お父様!」


元気よく返事をしたさく姫を床に降ろし、身支度を整えさせるよう侍女に伝える。

侍女に連れられ遠のいていく後ろ姿を眺めながら、若葉は娘の行く末を案じた。


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