つちかぶりひめ
「十夜様に怖いかって聞かれて、答えられなかった。あの一瞬まで、十夜様のことを怖いと思ったことなんて一度もなかったのに」
十夜の去り際、整った顔を悲しげに曇らせていたことに気付いたさくは、どうしてもその顔が忘れられないでいた。
「さく姫様は、弟皇子様とどうしてお知り合いになられたのですか?」
鈴に尋ねられ、さくはその出会いから話す。屋敷から抜け出した時に出会ったこと。一緒に村人の手伝いをして、泥だらけになって帰ったこと。他愛もない話をしたこと。噂を聞いて、駆けつけてきてくれたこと。離れてしまって寂しく思ったこと。けど、怖かった時に助けに来てくれたこと。そして、皇子だと知ったこと。
思い出せば、十夜と関わって今まで感じた事のないような寂しさや悲しさを味わった。今抱えているこの複雑な気持ちも、さくにとっては初めてのものだ。
けれどもそれ以上に、一緒にいて楽しいという気待ちが大きいのが事実であった。
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