俺様社長に甘く奪われました

 総務部は四十二歳の部長、木村を筆頭に総勢十五名という大所帯。和気あいあいとした職場で、莉々子はみんなから「莉々子ちゃん」や「莉々ちゃん」と呼ばれている。

 今朝までに送られきたメールの確認をしようとパソコンを立ち上げている莉々子の隣の席では、鎌田志乃(かまた しの)が電話で備品の発注をしていた。
 彼女は莉々子より三つ年上の三十歳。目も口も大きい派手な顔立ちは、美しい二重瞼以外にこれといった特徴がないと思っている莉々子の憧れでもある。ストレートのワンレンボブをいつも耳にかけ、女性らしい仕草の持ち主。百六十五センチという長身も、百五十八センチの莉々子には羨むべきポイントだ。スレンダーな美女で、困ったときに助けてくれる、頼もしく優しい先輩である。

 ふと総務部の電話が鳴り始め、松永がすかさず受話器を持ち上げる。呼び出し音の鳴り方からして内線だろう。


「はい、総務部松永です」


 彼は莉々子より二歳年下の二十五歳で、主に社内設備の現場担当。栗色の髪はサラサラで、アイドルグループにでもいそうなかわいらしい顔立ちをしている。最近、不動産部の同期の女の子と付き合い始め、毎日ウキウキだ。


「承知いたしました。すぐに伺います」


 松永は電話を切ると、向かいの席からニコニコして顔を覗かせた。

< 10 / 326 >

この作品をシェア

pagetop