俺様社長に甘く奪われました
二度目のアクシデントはシャンパンで

 三年後――。

 どの季節が好きかとの問いに、莉々子はいつも「春」だと答える。それも四月のほんの数日間。
 通勤時に必ず通る道は別名【桜街道】と呼ばれ、桜の季節にはピンク一色に染まる。
 その光景は、国内はもちろんのこと海外の観光客からも賞賛されるもので、その時期になるとSNSは桜街道の美しい写真で溢れるようになる。

 中でも莉々子が好きなのは、視界いっぱいに咲き誇る桜が一斉に散るところだ。空も地面も、とにかく目に入るものすべてが桜色に埋め尽くされ、言葉で言い表せないほど美しい。満開の桜ももちろん好きだけれど、それが風にハラハラと舞う景色は別格なのだ。

(今年もあと数日もしたら、その姿を見られそう)

 その日を楽しみにしながら地下鉄の駅から地上へ出ると、生暖かい風が頬を撫でていく。目の前には満開の桜。通勤途中の人たちも、ところどころで立ち止まりながら圧巻の景色にスマホをかざしていた。

(私も撮影しようかな)

 そう思いつつ取り出したスマホの時計が、八時半まであと五分を切っていることに気づく。

(いけない、遅刻しちゃう)

 スマホを急いでバッグに戻して慌てて駆けだそうとしたところで、軽く吹きつけた風に肩より少し長い莉々子の髪がふわりと乱された。

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