甘く、蕩ける。
「す、すみません。こんな所でジメジメしち

ゃって」

「いえ、そんな事ありませんよ」

旦那とは正反対の見た目に思わず噴き出し

そうになる。それほどまでに彼は魅力的な

男性だった。

「元気ないですね。僕で良ければ、お話し

てもらえませんか?」

その柔和な笑顔を見ていると、つい甘えてし

まいそうになり理性で心にブレーキを掛け

る。そうでもしないと、油断すればすぐに

身も心も委ねてしまいそうになるから。

「優しいんですね」

「普通ですよ、僕は。ただ、あなたのつら

そうな顔を見ているとどうにも放っておけ

なくて」

そんな彼の優しい言葉に、胸の奥がキュン

と高鳴る。旦那との結婚生活に「キュン」

なんてものは一切なかったというのに、まさ

か初対面の彼にときめいてしまうなんて不

覚だ。

「あんまり長居しちゃうと申し訳ないか

ら、もう帰ります」

私はそう言うと花屋を後にしようと彼に背

を向けた。
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