軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「……お察し申し上げます。さぞかしおつらい話だったでしょう。けれどシーラ様、どうかお心をしっかりお持ちください。アドルフ陛下は確かに己の野心のためにあなたを利用しようとされました。けど、日々良き皇妃になろうと努力なさっているシーラ様に心打たれていたことも確かだと思います。すべてが無意味だった訳ではありません。どうかご自分を、見失わないように」

真摯で優しいボドワンの励ましは、今にも崩れそうになっていたシーラの心を救った。

確かにアドルフは己の権力拡大のためにシーラを娶り、利用しようとしたのかもしれない。けれどそれでも、紡いできたふたりの絆がすべて偽りだったとは思えなかった。

(そうよ、決めつけてはいけないわ。だってアドルフ様は、決して冷酷な方ではないもの)

シーラを強引に妻にすることに罪悪を感じ苦悩していた姿や、大怪我をしてまで野犬から守ってくれた姿、それに頬を赤らめシーラに恋していることを打ち明けた姿は、間違いなく彼の本当の姿だ。

彼に失望するのはまだ早い。そう考えてシーラは俯かせていた顔を上げた。

「ありがとう、ボドワン。……私、メア宮殿へ帰ったらアドルフ様とお話するわ。今まで真実を教えられなかったことは不満だけど、アドルフ様にも理由があったのかもしれないもの」

気持ちを落ち着かせたシーラは、ボドワンに向かって照れくさそうに笑みを向ける。

「またあなたに助けられたわね。やっぱりあなたは私の親友だわ」

「あなたに泣き顔は似合わないですから。お力になれたのなら光栄です」

少年のような屈託ない笑顔を浮かべたボドワンを見て、彼が親友で良かったと心から安堵しているシーラは気づかなかった。

向かいの席に座るマシューズが明るさを取り戻した彼女を見て、小さく舌打ちしたことに。
 
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