軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「――で、俺の花嫁はどこだ?」

ワールベーク帝国ヴァイラント王朝三代目皇帝、アドルフ・フランク・フォン・ヴァイラント=インゼルーナが、自分の妻を初めて目にしたときの台詞がこれである。

彼の側近であるヨハンはしばらく考えるそぶりを見せてから、「目の前におられる女性がそうかと」と、答えた。

アドルフはヨハンの言葉が理解できないといった様子で、二、三度まばたきを繰り返す。

目の前にいるのは、初対面の男達に対し、戸惑いと愛想笑いを同時に浮かべ微妙な笑顔になっている少女だ。

思わずさわりたくなるような、ふっくらとした白い頬。見るからに柔らかそうな髪は蜂蜜色で、前髪をリボンで結び形のよいおでこを出している。さぞかし好奇心がたくさん詰まっていそうな瞳は青くて、小動物のようにまん丸だ。くびれのないストンとしたワンピースは生成りのもので、色気とは縁遠い。

全体的にとても幼い印象だ。ただ、瑞々しい薄桃色の唇だけは、やけに蠱惑さを含んでいるように見えた。

「……確認する。俺の花嫁はフェイリン王国第一王女、シーラ・アッシュフィールド、十八歳で間違いないな?」

「さようでございます」

「ではもう一度聞く。俺の花嫁はどこだ」

冗談は許さんという圧を込めてアドルフが語調を強めて言うと、ヨハンは手に持っていた書類と目の前の少女を何度も見直し、「……陛下の目の前におられるお方です」と自信なさげに呟いた。

 その返答にアドルフが眉根を寄せ頭を抱えて黙り込んでしまうと、目の前の少女……シーラは、困ったような愛想笑いをへらりと浮かべた。
 
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