ただいま冷徹上司を調・教・中!
平嶋課長のことばかりに夢中になりすぎていて、私は周りを見てなさすぎたようだ。

だから今までは電話やメッセージでしか絡んでこなかった和宏が、社内でも話しかけてくるようになったことにすら疑問を感じなかったのだ。

そこで危険を察知すべきだった。

だから私はこんな所でこんなピンチを招いてしまっている。

私はなんて間抜けなのだろう。

深々と溜め息が漏れた。

「どうしてそんなに隠さず溜め息つけるんだよ」

「あなたが嫌いだから」

もう目を合わせるのも嫌なんだ。

この男……和宏とは。

水曜日の就業後、晩御飯のメニューを考えながら会社の階段を下りようとしていた私の腕を、突如強引に引っ張った人物がいた。

言わずと知れた和宏、その人である。

「ちょっ……なんなのよっ」

振りほどこうとしたけれど、ビクともしないほどの力に私の足は戻された。

「ちょっと来て」

「嫌よっ。離して」

断固拒否するのだが、和宏は引き摺るかのように私を小会議室に押し込んだ。

「これでゆっくり話ができるね」

「冗談じゃないわ。話すことなんてない。そこをどいて」

和宏はドアの前に立ちはだかって、私が出ていくのを阻止している。

「いい加減にしないと大声出すわよ」

「それもいいけど、千尋も恥かくぞ?」

根性のない和宏のことだから、少し脅せば怖気付くだろうと思っていた。

けれど今日の彼はどうしたことか、かなり強気で私ににじり寄ってくる。

「本当にやめて。それ以上、近付かないで」

和宏が歩を進めるぶん、私は不本意ながら後退りをするしか距離をとる術はない。

しかしそれも限界があり、とうとうテーブルが私の後退を阻んでしまった。
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