ただいま冷徹上司を調・教・中!
「だって」

仕事モードでは絶対に使わないワード。

私の頭の上からそんな珍しい言葉が聞こえて、私は凱莉さんから離れるのをやめた。

「どうしても言いたかったんだ」

「どうしてそんなに言うことに拘るんですか」

本当は言おうが言うまいが、大きな問題ではなかった。

けれど凱莉さんの相手が私だということに、まだ胸を張れない自分がいたのだ。

恋人としての私達は既に公認だし、今まであまり気にもならなかったのだが。

結婚となると話が変わってくる。

周りの目が気になってしょうがないんだから。

「自慢……したい」

は?

「俺が千尋との結婚が決まって人生最高潮なのを、自慢したい。……特に吉澤に」

ぶはっ!!

ちょっとちょっとちょっとぉ!

今さらなに?

なにくっそ可愛いこと言ってくれちゃってんの?

「全員に堂々と千尋は俺のだって言いたい。俺の婚約者だって目で見てほしい。……ごめんな?」

「凱莉さん……」

私、こんなに幸せでいいんだろうか。

凱莉さんにこんなに愛されていいんだろか。

自分がまるで王子様に溺愛されたお姫様にでもなったかのような。

そんな幸福感でいっぱいになった。

「俺、千尋のことになると見境がない。自分でもわかってるんだが、これはどうにもならないみたいなんだ」

こんなこと言われて『ダメ』だなんて、いったい誰が言えるだろうか。
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