マインドトラベラー
【黒き雷光⑩ バラッド:拠点】

これまで常に単独で行動していた雷光は、
ナナが来たので新しいオフィスを見つけて引っ越した。
応接、キッチン、リビングに、浴室、倉庫、仮眠室。
工房、書斎、シアターも備えた巨大な物だった。

とはいえこれはマーシャから斡旋された物件で、
施設もMITA(まいた)の所有物。仕様としても標準で、
トラベラーなら大抵は拠点を各地に持っていた。
雷光の様に、一つだけというのはむしろ珍しい。

ナナにも拠点は用意され、マーシャが候補を示したが、
最も雷光拠点から近い所を指定して、
マーシャを少し呆れさせ、拠点移動を雷光に
考えさせる一幕もあったりしたが、ひとまずは、

雷光拠点は常駐用。自分の拠点は倉庫用。
二つの拠点を使い分け、やってく事に落ち着いた。
マーシャは何故か張り切って仕事をどんどん持ってきた。
当然ながら、雷光の所にナナは入り浸る。

十年前まで、雷光と一緒に過ごしたあの場所の
記憶が徐々によみがえる。とっても狭い部屋だった。
突然それは、彼女から取り上げられてしまったが、
彼女にとって、あの場所はまごうことなき「家」だった。

心身ともに安らげるたったひとつの場所だった。
一度は奪い去られたが、今は再び手に入れて
ここにこうして立っている。二度と手放すつもりは無い。
強い決意がにじみ出てナナのオーラは燃えていた。

そして今回MITA(まいた)からアシスタントも派遣され、
新体制が始まった。ナナにとっては、雷光の
存在だけが重要で、二人きりではない事に
不平をもらす事も無く至極普通に振る舞った。

ただ、雷光に寄せているナナの思いは、傍目にも
極端なまでに狂おしく、他人の理解を越えていた。
対象的に雷光は、常々ナナに素っ気無い。
ナナは気にする風でもなく雷光のそばに居続けた。

ある時彼女が雷光に叱られていた事がある。
 「爺(じじい)が何を偉そうに! あんなの気にせず楽しくさぁ、
  憂さ晴らしにでも行かないか?」
近くで見ていた男たち、親切ぶって声かけた。

 「他を当たってくださいな。私が怒らないうちに」
ゾッとする程低い声。冷たい視線を向けられて、
無言で立ち去る男たち。ナナの気迫に負けたのだ。
元より彼女は気にしない。一瞥すらせず歩き出す。

程なく拠点に帰り着き、
 「ただいま」 
自席をふと見ると、お菓子セットが置いてある。
十年前に好きだった、お気に入りの一品だ。
 『子どもじゃないのに。こんなこと』
それでも思わず表情が緩んでしまうナナだった。
 「覚えててくれたんですか」
思わず口に出していた。

 「子ども扱いした分けじゃないが、
  さすがに情報、古過ぎた」
頭をかきかき雷光は、棒読み声で弁明だ。
 「今のお前のお気に入り、教えておいてくれないか?」
 「おじさん、いいよ、このままで。
  今でもお菓子好きだから」
ナナは微笑み、答えたが、雷光、少し渋い顔。
 「今のお前を知る事が必要だから」 と雷光が
顔色ひとつ変えないで言うのを聞いて切り返す。
 「高くついても知らないよ。私も子どもじゃないんだよ」
 「そういう所は子どもだな。高くつくのは構わない」

 「あのぉ、そろそろいいですか?」
ナナは初めてもう一人ここにいたのを思い出す。
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