誓約の成約要件は機密事項です
何も言えずに顔色をなくす千帆を涼磨はしばらく観察していたが、やがて十分待ったとでも思ったのか、重々しく口を開いた。

「ならば、継続して会うことにしよう」

――なんでそうなるのっ!?

あわあわするばかりの千帆の手から身上書を奪い、涼磨はそれを封筒に納め、また千帆の手元へと戻した。

いつの間にか、涼磨が目の前にいる。しっかり首を上げないと、見上げられない近さだ。

――背、高い。

会社でこんなに近くに来られることはなかったものだから、他の同僚たちに比べて頭一つ抜ける高さを初めて実感する。

香水でもつけているのか、微かに甘い香りがした。

そんなことに気づく自分に、一人で赤面する。

「また連絡する。週末、空けておいてくれ。帰り際に、引き止めてすまなかった」

やっぱり、千帆の耳は昨日からおかしいらしい。

――那央さん。明日は有給取って、耳鼻科に行かせていただこうと思います。







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