誓約の成約要件は機密事項です
「また、連絡する」

うつむく千帆を深追いせず、そう結論付けた涼磨に、千帆はどうにか頷いた。

シートベルトを外した千帆の腕に、涼磨の指先がサッと触れる。それだけで、ビクリと大きく体を揺らした千帆に、涼磨は頭を下げた。

「失礼。これ、持って帰ってくれないか。僕は、どうせ食べない」

「じゃあ……ありがとうございます」

持たされたポップコーンのバスケットからキャラメルが香って、涼磨から漂った気がした甘い香りは分からなくなった。

「おやすみなさい」

「おやすみ……千帆」

千帆は、慌てて車を降り、姿を隠すように深く礼をした。

――『妻』って……! 『千帆』って……!!

頭に血が上りそうなほど体を折りたたんでいると、車が走り出した。

どうにか繕えただろうか。心臓が痛いほど鼓動を刻んでいる。

もう冷静には、涼磨に会えない気がした。

テールランプを見送りながら、これであの車に乗るのは、最後にしようと決めた。




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