誓約の成約要件は機密事項です
結婚に、恋愛感情はいらないと思ってきた。

というより、恋愛感情がどういうものか、分からなかったのだ。友情に似たパートナーシップがあれば、十分だろうと漠然と考えていた。

見合いなら、相手も大恋愛は要求しないだろうし、うまくいくだろうと思っていた。

二次会に行く人を見送り、一人で駅に向かおうとした千帆の横に、背の高い人が並んだ。

「送る」

涼磨だった。

「……いえ、一人で帰れます」

あれから、涼磨と二人で会うことはなかった。

幸い職場でも、すれ違う程度にしか会っていない。

連絡は、時おり来ていたが、返事をしていない。どう返して良いのか分からなかったからだ。

「話し合う必要があると思わないか」

「そうでしょうか……」

「ようやく会えたんだ。話をするまで帰さない」

差し迫った様子に負けて、涼磨について行った。

けれど、涼磨の家にまでついて行く必要はなかったのだと気づいたときには、そのドアの内側にいた。高級ホテルのように、そこら中がピカピカしたマンションに、ようやく焦りが芽生える。

「私……やっぱり帰ります!」

「待て」

ドアのロックを片手で覆い、涼磨はドアと自分の間に千帆を挟む。

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